Une Voix Noire / Serge Lutens


Une Voix Noire / Serge Lutens昨年9月、セルジュルタンスのパレロワイヤル店限定で展開されているシリーズに新作、”Une Voix Noire / ウン ヴォアノアール” が加わった。
この香りは、セルジュが初めて”ひと”にオマージュした作品だ。

Billie_Holiday_and_Mister,_New_Yorkビリー・ホリデイ、1930年から50年代に活躍したアメリカの女性ジャズシンガー。セルジュはその声に魅了されただけでなく、彼女のストーリー、当時のジャズシーンなどにインスピレーションをうけ、『どこか自分に重なるところのある人』と感じたそうだ。
男物の大きな腕時計の巻かれた手で、タバコをくゆらす姿。子どもの頃から少女っぽい趣味には興味がなかった。天性の歌声とその個性的なファッションセンスや仕草は当時ニューヨークのジャズファンたちを熱狂させた。

セルジュは想いを馳せる、当時のアメリカの活気に満ちたナイトクラブ、才能がひしめき合い、毎晩のように奇跡的な音楽が生まれていた。
ジャズクラブの暗がりの中、甘い香りの葉巻と人々の会話、朝まで続く熱いリズムと音色、アルコールやコーヒーのような深みとコクのある香り。彼女が歌い出せば、まるで闇の中に一輪の白い花が咲くようだ。
舞台で歌う彼女の髪には白いくちなしの花が飾られていたのも有名な話だ。こっくりと甘く切ない香りが歌声のように流れる。

香りのノートはオリエンタルフローラル。危うくどこかミステリアスな印象が漂う。ラム酒やスパイスのあたたかく刺激的な香り、『奇妙な果実』の濃厚なベリーのフルーティーさ、たばこの葉の湿った甘さと焦げたような香り、ムスクやアニマル調に、ガーデニア(くちなし)の花、セルジュらしい巧みでミステリアスな調香が冴える。

ジャズクラブの暗闇にまばゆく輝くビリーの歌声のようにユニークで、情感にあふれ、チャーミング、魅惑的でクセになりそうな香り。
それはまるで濃紺の星空に白く輝く満月のように、唯一無二。パルファン界のセルジュの存在のようにも映る。

朝までジャズの鳴り響く熱い空気の中、独自のリズムで歌う彼女の黒い声が響いていたあの頃のジャズクラブの扉をそっと開いてみたくなる。