四季折々の植物の話。



仏 figue / 英 fig

初秋になるとまだ少し湿った秋風にのってふわりとイチジクの甘い香りがどこかの家の庭先から漂ってくる。
ぽってりとしたしずくのような形の実に、大きな葉、蜜のような甘さとクリーミーさ、ほんのりとグリーン調が香るその実が夏から秋へ季節の移ろいを知らせてくれる。

日本語の「無花果」は、花をさかせずに実をつけるようにみえることが由来。食す実の粒状の果肉は花托(かたく)という部分。

イチジクはすでに古代ローマ時代から生食されており、そのしっかりとした果肉は糖分が高いために当時は貴重な甘味源のひとつであったという。旧約聖書『創世記』にも、アダムとイヴがイチジクの葉で体を覆ったと記されている。

樹木、葉、果実共に香りをもち、乾燥した土壌で育ちやすい。地中海沿岸の各国でも盛んに栽培され主に食用として用いられる。
フランスでは、生食、コンフィチュール、肉料理のソース等や、また乾燥させたイチジクをパンやケーキ等にと広く使用されている。
果実からは精油が抽出されないため、香料としてのイチジクは合成である。果実は日の光をいっぱいに浴びたフルーティーでミルキーな甘さが香る。葉からは溶剤が抽出され、甘みのあるグリーン調、ハーブのような香りの奥に苔やウッディノートが感じられる。

ゲランの Aqua Allégoria Figue-Irisアクア アレゴリア フィグ イリス (2008年)は、イチジクとグレープフルーツの爽やかな香りから始まり、ミドルでイチジクの甘さとすみれの葉のくっきりとしたグリーンノート、イリスの落ちついた優雅なパウダリーフローラルが調和する。
2003年の発売以来、Hermès で不動の人気を獲得した Un jardin en Méditerranée/地中海の庭 は、調香師ジャン・クロード・エレナのエルメスの庭シリーズのひとつ。地中海を感じさせるアクアティックノートにオレンジフラワーのフローラル、ミドルノートにはローリエやイチジク、ラストには赤杉とイチジクの木のウッディが香り、南仏の自然の恵みをいっぱいに感じられる。

夏の太陽の恵みを吸収したイチジクが、秋空の下で芳しく揺れる。

 

 
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